カーボンフットプリントとはどのような取り組み?
注目を集める理由とは
地球温暖化が騒がれる近年、世界各国では二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出を削減するための取り組みが急務となっています。そして、さまざまな国で実施されている温室効果ガスの排出量削減を目的とした重要な取り組みの1つが、「カーボンフットプリント(CFP)」です。
カーボンフットプリント制度は、2007年にイギリス政府が先陣を切って開始しました。翌年の2008年には日本でも「低炭素社会」や「CO2の見える化」の具体策として取り上げられ、2012年から一般向けのカーボンフットプリントプログラムが運営されました。
環境問題に取り組みたいと考えている企業の経営者やサステナビリティ担当者に向けて、カーボンフットプリントの概要からカーボンフットプリントに取り組む際の課題、さらに日本や諸外国におけるカーボンフットプリントに関する動きを解説します。ぜひお役立てください。
1.カーボンフットプリントとは?
カーボンフットプリントとは、製品のライフサイクル全体における温室効果ガスの排出量を見える化(可視化)する仕組みです。英語では「Carbon Footprint of Products」という名称で、頭文字を略して「CFP」とも称されています。
カーボンフットプリントでは、商品・サービスの原材料の調達から生産、流通、販売、使用、廃棄またはリサイクルに至るまでの全過程を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、商品やサービスに分かりやすく開示されます。
2007年にイギリスで開始されたカーボンフットプリント制度は、日本国内でも2008年からCO2排出量を「見える化」するために取り上げられました。2012年からは一般社団法人サステナブル経営推進機構に事業が継承され、「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」が運営されました。現在では、従来のエコリーフ/CFPプログラムを統合した新たなプログラム、「SuMPO環境ラベルプログラム」が運営されています。
1-1.カーボンフットプリントの算出方法
カーボンフットプリントでは、「LCA(ライフサイクルアセスメント)」と「PCR(商品種別算定基準)」の手法にもとづき、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの全プロセスにおける環境負荷が定量的に算出されます。
しかし、すべての製品で算出方法が統一されているわけではありません。製品カテゴリによってどのLCAを適用するかが変わるほか、どの工程でCO2を算出すべきかが変わるため、具体的な算出方法もカテゴリごとに異なることを覚えておきましょう。
たとえば衣服の場合、繊維原料の調達や生地・糸の製造・裁縫時に使用するエネルギーや電力量、輸送時に排出されるCO2量だけでなく、消費者が衣服を洗濯するときに使用される水や電力等のエネルギーも測定しなければなりません。化粧品であれば、原材料の製造や輸送、生産にかかる電力量だけでなく、化粧品を使用するときに使うコットンの生産にかかるエネルギーも算出対象となります。
1-2.カーボンフットプリントが注目を集める理由
現在、日本を含む世界中の国でカーボンフットプリントが注目されている背景としては、下記が挙げられます。
気候変動対策のため
カーボンフットプリントが注目される最大の理由は、「深刻な気候変動問題の対策につながるため」です。気候変動は地球温暖化を加速させるだけでなく、自然災害を増加させるリスクもあります。社会経済への深刻な影響が生じることを防ぐためにも、カーボンフットプリントによる気候変動対策が喫緊の課題とされています。
カーボンニュートラルを実現するため
「2050年までのカーボンニュートラル実現」を宣言する国は多く、日本も例外ではありません。環境負荷の定量的かつ客観的な算定ルールが設けられたカーボンフットプリントは、企業全体の環境問題に対する評価軸を生み出せることから、カーボンニュートラルの実現に不可欠な取り組みとなっています。
国際的な競争力を得るため
近年、世界中の企業では「SDGs(持続可能な開発目標)」にもとづく活動が求められています。こうした状況において、カーボンフットプリント制度に取り組むなどして環境問題の解決に努める企業は、国際的な競争力を得ることにもつながります。
2.カーボンフットプリントに取り組む際の課題
カーボンフットプリントに取り組むにあたっては、いくつかの課題もあります。実施ハードルは決して低くないため、規模を問わずすべての企業が簡単に取り組むのは困難と言えるでしょう。
ここからは、カーボンフットプリントに取り組む際の課題を4つ、それぞれ詳しく紹介します。
2-1.算定に時間やコストがかかる
カーボンフットプリントの算定基準には、環境省による「CFPガイドライン」や経済産業省による「PCR」のほか、定量化に向けた要求事項とガイドラインを定義した気候変動に関する国際規格の「ISO 14067」などがあります。
カーボンフットプリントを算定するにあたっては、これらの算定基準にもとづき、製品ライフサイクルの全段階における温室効果ガスの排出量を求めなければなりません。こうしたデータ収集に割けるほどの十分な人的リソースを有する企業は少ないでしょう。
加えて、CFPマークの新規認証・取得には決して安くはない費用が発生するため、企業の資金力も高めなければなりません。このように、カーボンフットプリントの取り組みを推進するためには、企業のさまざまなリソースを確保する必要があります。
2-2.専門的な知識が必要
前述の通り、カーボンフットプリントはさまざまな規格・基準で算定します。製品別の算定ルールが策定されていない一部の業界や製品は、ISO規格を参照してカーボンフットプリントを算出するのが基本ですが、ISO規格は解釈が統一されていない部分もあります。
こうしたケースでは、企業が独自に解釈して具体的な算定⽅法を設定しなければなりません。ときにはサプライチェーン全体の協力も必要となることから、専門知識は不可欠と言えるでしょう。
そもそも、カーボンフットプリントを算定するための国際的なルールや専門知識を従業員に浸透させることは簡単ではありません。スムーズかつ正確な算出に向けては外部リソースの活用が望ましいものの、その分コストが発生することも覚えておきましょう。
2-3.消費者の理解が得られにくい
カーボンフットプリントに関する取り組みが日本で開始されてからは10年以上が経過していますが、世間にはさほど普及していないことが実情です。加えて、カーボンフットプリントに取り組む企業も決して多くはありません。
「消費者が理解できていない」「導入製品が少ない」という状態では、消費者が普段の買い物でCFPマークやCO2排出量の書かれた製品を目にしても、それが地球温暖化対策にどれほど貢献するのか、ほかの製品と比較してどう違うのかを把握するのは困難でしょう。
消費者が環境負荷の低い製品を選択できるようにするため、そして企業による取り組みの努力を無駄にしないためには、カーボンフットプリントに関する知識や企業が行っている取り組みについて、世間により分かりやすく発信していく必要があります。
2-4.消費者の理解が得られにくい
企業がカーボンフットプリントに関する取り組みを実施するにあたっては、まず自社の慣行を把握した上で、エネルギー使用量の削減案を検討し、新たなインフラや再生可能エネルギーを導入するなど、さまざまな施策が必要となります。
これらの施策には、多大な時間とコストがかかることも十分にあり得るでしょう。資金繰りの悪化を避けるためにも、あらかじめどこにどのようなコストが発生し得るのかを予測しておくことが大切です。
3.日本や世界のカーボンフットプリントに関する動き
カーボンフットプリントに関する取り組みがヨーロッパやアメリカを中心に広がっている近年、日本でも2023年3月にカーボンフットプリントに関するガイドラインが制定され、さらなる推進を目指しています。
企業がカーボンフットプリントに取り組むことには「環境問題に関心が高い消費者に対するアピールポイントになる」というメリットがあるほか、消費者にとっても「環境に配慮するメーカー・製品を選べる」というメリットがあります。
最後に、カーボンフットプリントへの取り組みを検討している企業に向けて、国内企業の取り組み事例を紹介します。
3-1.カーボンフットプリントに関する取り組み事例
カーボンフットプリントに取り組む多くの企業は、原材料の調達や工場配送時において、下記のような施策を実施しながらCO2排出量の削減に努めています。
- 排出量削減目標の策定
- 再生可能エネルギーの使用
- 資源循環の促進
- 環境負荷の少ない包装材の使用
サステナブルな社会の実現に向けた活動については以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
また、実際の企業での取り組みとして、下記のような事例も存在します。
アシックス
2023年9月、アシックスは温室効果ガスの排出量を市販スニーカーの中でも最小限に抑えたスポーツスタイルのスニーカーを発売しました。ミッドソールには新たに開発されたサトウキビ由来の原料が、アッパーにはリサイクルポリエステルが採用されています。
ミズノ
2022年9月、ミズノは商品のライフサイクルで排出されるCO2をオフセットできるランニングシューズを発売しました。リサイクルポリエステルや植物由来の原料など環境に配慮した素材を採用することで、温室効果ガスの排出量の大幅な削減に成功しています。
シチズン時計
2016年9月、シチズン時計は環境に優しいものづくりと独自の光発電技術「エコ・ドライブ」で実現した新たなコレクション(全20モデル)を発売しました。環境負荷の少ない部材が優先的に採用されているほか、わずかな光で充電できます。定期的な電池交換の必要がないため、廃棄電池を出さない点も大きな特徴です。
4.まとめ
カーボンフットプリントは、気候変動の対策やカーボンニュートラルの実現、さらに国際的な競争力の強化に資することから、日本を含む世界中の多くの企業で取り組まれています。
企業がカーボンフットプリントに取り組むにあたっては、従業員・時間・資金といったリソースを確保した上で排出削減目標を策定するだけでなく、再生可能エネルギーの使用やサステナブルなものづくりへの変革、新たなインフラシステムの導入等が欠かせません。
ECサイトで商品を販売する際にカーボンフットプリントに取り組むときは、不必要な再配送や倉庫稼働率の削減を通じてCO2排出量を抑えられるaltcircle(オルトサークル)のECプラットフォームサービス、フルフィルメントサービスが有効です。ECサイトを運用しながらカーボンフットプリントの取り組みを行いたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ECプラットフォームサービス、フルフィルメントサービスについては以下で紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。